秋の関東旅行記 その3 (ボイン編)

7時に起きて、JRで取手に行く。そこで常総線1日フリーきっぷ(1500円)を購入し、常総線に乗って1時間かけて下妻で降りる。下妻は映画「下妻物語」の舞台となった田舎町である。しかし、別に「下妻物語」の聖地巡礼に来たわけでもなく、深田恭子土屋アンナにも興味は無い。昨日に続き、目当ては地元のゆるキャラである。下妻市のマスコットキャラクター「シモンちゃん」のグッズを探しにやって来たのである。

下妻駅からマイクロバスに乗って15分。「しもつま砂沼フレンドリーフェスティバル」の会場に着く。

広い会場に溢れんばかりの人・人・人(公称2万人)。地元農家の物産市や地元商店街の出店。地元中学校の出す食べ物屋などがズラリと並んでいるとてもドメスティックでフレンドリーなフェスティバルであった。会場の敷地でDJイベントをやってて会場内にズンズンズンズンと重低音が響いている。その隣では地元ビールを飲めるビアフェスタもやっている。天気は真夏のように快晴で、動員的にも天気的にも今年は大当たりという感じであった。

小一時間かけて「シモンちゃん」を探すが、全く見つからなかった。かつてこの祭りでシモンちゃんマグカップシモンちゃんストラップを限定販売していたというネットの蜃気楼のような情報を目当てに来たのだが、現在は作ってないらしい。下妻市職員が背中に大きく「シモンちゃん」の描かれたイカしたハッピを着ている、という怪情報もあったのだが、会場中回ってもひとりもそういう奴はいなかった。完全に空振りに終わった。この自治体はゆるキャラにまったく力を入れていなかった事がわかった。意気消沈する。失意のうちにロリータファッション試着コーナーを眺めたりして、帰りのバスまでの時間を潰していると、砂沼ビアスパークに作られたメインステージで、「仮面女子」のライブがはじまるらしく、司会の事前説明(撮影禁止とか)が始まったので、せっかくなので足を停めて見て行くことにする。

仮面女子は「地下最強」を掲げてアリスプロジェクトという事務所が潤滑なコネと資金を使って現在全力で売り込んでいるグループで、昨日は「ラウドパーク」のオープニングアクトを飾ったばかりである。


ちょっと前に、YOUTUBE前山田健一やついいちろうに仮面女子を解説してる動画が面白くて、ゲラゲラ笑った思い出がある。

正直「ここには絶対関わらんとこう」と思ってたグループだ。まさか下妻で遭遇するとは思わなかった。よく見ると東京から出張してきたのだろうハッピ姿のファンも結構な数でいる。屋台の縁日で買ったアンパンマンのお面を被ってる大人がいるのは「仮面女子」のファンだからだろう。事前説明で「ボートで観客に乗り出して行く・・・」とか言ってて、「ハハハ。そんなラムシュタインみたいな事するのかよ」と思ってふと見たらステージ横にゴムボートがあった。ステージ前のパイプいす席に座ってるのは何も知らないお爺さんお婆さんばかりである。どうなるんだろうと不安と期待でドキドキしてきた。

定刻にステージに仮面と超古代兵器みたいな剣を持って現れた「仮面女子」の6人。でもトレードマークの仮面も1曲ですぐ外してしまうし。衣装は秋葉系の間違ったRPG女戦士みたいで奇抜だけど、意外と(と言ったら失礼だけど)普通の女性アイドルグループだった。秋葉系地下アイドルを、田舎の野外のでかいステージで見てるのがミスマッチで不思議な感じがしたが、歌は口パクらしいけどダンスもフォーメーションも場数を踏んでるだけあって堂々としてるし、なによりこういうアウェイの幅広い観客の居るステージで魅せるパフォーマンスをする事が、そのまま血肉になって成長していくんだろうな、というアイドルにとって良い経験を今まさにしてる感じがした。


そして合間のMCで、さいたまスーパーアリーナデノワンマンが決定したとが告知された。沢山の地下アイドルがPerfumeやモモクロを目指して一歩一歩地道にファンベース拡大に頑張ってるのに、いきなりワープしてゴールに着くような無謀な試みだと思う。「地下最強」というフレーズもそうだが、このグループの運営組織が、過程をすっとばして結果が欲しいという、余りに性急な感じがするのが見てて危うい感じがしてならない。仮面女子のホームページを見てもすぐわかるが、後ろの大人の「AKBみたいな集金組織を作りたい」という欲望が強すぎるのだ。まるで赤ずきんちゃんのお婆さんが尻尾も耳も牙も丸見えしてるような運営組織で、そんなグループに所属してる子が気の毒になってくる。

そんな業界半可通の知ったか野郎のようなモードで冷ややかにショーを見てたのだけど、気が付くと母親に連れられた2歳〜5歳くらいの女の子達、が熱心に仮面女子のステージに食いついてるのを見つけた。そういえば、リアル少女の世界でもいま「アイカツ!」「プリティーリズム」などアイドル物のアニメが大人気なのである。まだ小さい彼女達からすれば「文献やテレビでしか見た事のないアイドル…まさか実在したとは!?」という印象なのだろう。初めて見るアイドルを興味深そうに眺めていた。ステージ上の仮面女子の人達も、小さい女の子を見つけるとニッコリして寄って行って手を振っていた。少女からすればアイドルは未来のなりたい自分の姿であり、アイドルからすれば少女は過去の自分自身に他ならないわけで、アニメ「アイドルマスター」 で、念願の大きなステージに立ったアイドルを、客席で幼いころの自分が応援している、という超ベタだけど泣ける名シーンを思い出したりした。アイドルの正と善の部分を見た気がした。キワモノの仮面女子なのに。

そんなこんなで最後の曲になりゴムボートがハッピを着た連中(謎だったが客なの?スタッフなの?)によって用意され、アイドルがそれに乗って右に左に移動するという演出を見て「なんだ客席に乗り出していくんじゃないのか」とガッカリ安心した。まぁお爺さん達の上に行ったら正直危ないからなー。いっそフレーミング・リップス見たいに巨大風船に入って客の上を転がればいいのにと思った。最後の曲でタオルを振りまわす曲があったので、せっかくなので一緒になって振りまわした。俺の初タオルは湘南乃風に捧げるつもりだったのに!隣のテントでチェキとか物販とかしますと最後に喋ってたけど、そういう地下アイドル用語は今日のお客に伝わってないと思った。正直自分もチェキとか意味分かんないし。あと気づいたのは、本来アイドルが最も刺さるだろう10代男子の姿が余り見えなかったこと。考えてみればそれもそうで、こういう地縁血縁がガッチリした地区の祭りで、下手にアイドルにがっつくと、翌日から近所や学校で笑い物になるのだろう。帰りのバスで「○○マジでキモかったな」「あんな奴だと思わなかった」と男子高校生が喋ってるのを聴いてそう思った。

山形に帰ってからネットで調べると、下妻で見たのは仮面女子の中の「アーマーガールズ」というユニットだった。「アイリッシュアイドル」が売りらしく楽曲はティンホイッスルがピーピー鳴ってるケルト調の曲で、ザ・ポーグスやフロッギング・モリーのアイドル版みたいで、ものすごく面白かった。アルバム買ってみようと思った。色んなアイドルがいるものだ。

そのあと「シモンちゃん」の格好で歌い踊る、地元下妻のアイドル「しもんCHU」のステージがあるのだけど、時間が合わないので、泣く泣く断念。地元商店街のブースに飾ってあった「シモンちゃん」のキーホルダーを無理を言って売ってもらって、帰る事にする。



帰り際にサヌマーソニックに寄って行く。

タイムテーブルがシモンちゃん仕様だった。

地元の祭りで有志がDJごっこを行うのはどこでもある事だろうけど、ここのは抜群に重低音が響いていて良かった。野外で聴く爆音が大好きなので、バスの時間まで踊って行く。天気もいいし、公園が広くて解放感があるし、隣はビアフェスタだし、なかなかのロケーションだった。


バスで下妻駅に戻り、1時間かけて取手。そしてJRで日暮里へ。山形へ帰る夜行バスまでの時間、どうするか考える。映画を見るか、本屋に行くか、またアイドルを見るか。毒を食らわば皿まで。そう思って、昨日に続き目黒鹿鳴館にアイドルを見に行く。この日は15:30から「music power I doll」という22組の地下アイドルが出演するイベントが行われていた。20分の持ち時間で地下アイドルが入れ替わり立ち替わり現われる、それが6時間にわたって続く(さらにその後には物販もある。)長丁場のイベントだ。しかし、ルックスも衣装も音楽性もバラバラで「若い女の子」という事しか共通項のないアイドルが入れ替わり立ち替わり登場して歌って自己アピールして去っていくのは、ヴァラエティー感があって全然飽きなかった。このイベントの登場アイドルで知ってるのは1組だけだから心配だったけど、前知識ゼロで見るアイドルイベントって無駄に楽しいな、と思った。ニコニコ生放送でTIF1日目・2日目を見てた時にも思ったけど、アイドルが登場するたびに、未知の扉がどんどん開いて行く感じだ。
何より場を熱くさせていたファンの存在が楽しかった。アイドルそれぞれに固定ファンが付いていて、ライブの前に後ろの客に「お願いします!」と叫び、終わると「ありがとうございました!」と礼をする。ライブの間ずっと地面を見て大声を張り上げたり、ステージに乗り出してあおむけに寝っ転がったり、時にはアイドルと一緒にフロアーを走り回ったりフリーダムな応援をする。目黒鹿鳴館では、ツーステップが大いに流行っているらしく、アイドルTシャツを着たおっさんが汗だくでツーステップを踊りまくっている。会場には金髪のピストルさんという(幼女アイドルとツイスターゲームしてる写真がまとめサイトで拡散されて)有名な地下アイドルファンの人も姿を見せていて(誰を推してたのかは忘れたけど)発声に貫禄があっていなせな江戸っ子っぽくて格好良かった。見るものすべてが新鮮な驚きに満ちていた。

White Laceを見た後、目黒を抜けて、渋谷に行く。最近ダンジョン難度が増したと評判の渋谷駅を慎重に出て、パルコで開催中の「シブカル祭」のうどん兄弟のステージを見に行った。渋谷なんて好きなバンドやアイドルが出ない限り来たくない街だが、なんとステージはパルコの前に作られていて、パルコに出入りするお客や通行人の視線が痛い場所だった。「山形から来たの?アイドルを見に?ハハハ最悪!!」と言われてるようで落ち着かない(←幻聴です)。

「うどん兄弟」は昨日日本女子大で見たANNA☆Sに+1名の女の子が加わって出来ているラップアイドルグループである。ラップと言っても、彼女たちのそれはライムベリーやリリカルスクールの本格的なそれとは違い、女子中学生が学校の昼休みにフリースタイルごっこに興じているような、いたって適当なシロモノである(そもそもラップと云いつつ殆ど韻を踏まない)。全国の真剣なHIPHOP愛好者の皆さんは、為末大のツイートよりこちらに怒るべきと感じるが、この女の子がラップ文化を舐めてる感じ、がうどん兄弟の売りなのだろう。大槻ケンヂがむかし「落ち目のロッカーがMCATを見てこれだ!と勘違いして吹きこんだ曲」という設定でラップの曲をソロアルバムに収録してパーティーインザハウス!と叫んでいたけど、そういう自虐的なノリである。芸人の司会による注意事項(いわゆる“アイドル的な応援行為”は絶対に厳禁←近隣の店から苦情が来たらしい。ただし写真撮影及びアップロードはOK)のあとに「うどん兄弟」の4人が登場した。白いゆるふわ系の女子というイメージの衣装で、ANNA☆Sとは趣が違って、これはこれで非常に可愛い。ANNA☆SがBRAHMANだとすれば、うどん兄弟はOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND みたいなものだろうか。この日は新作アルバム「ラストアルバムVol.1」の宣伝で、アルバムの曲を全曲やるらしい。1曲目は、ムーンライダーズ鈴木慶一作曲の「ママが歌うアイドルの歌」である。80年代アイドル感いっぱいのキャッチーなAメロと、ドスを利かせたラップの落差が面白い(でしょ?というう運営の意図が透けて見える)。高円寺を舞台に根本敬や杉作J太郎がカメオ出演するPVはサブカル・ミステリー・ツアーという趣である。

プロデューサーは「昭和アイドルファンとHIPHOPファンの両方が聴いてイラっとする感じ」を狙ったらしいがその狙いは成功だろう。女の子が可愛かったら何をやっても許されるのである。個人的には鈴木慶一の音楽仕事の中でも「MOTHER」のテーマ曲の次の次くらいに好きである。



次に披露したのは、カーネーション直枝政広が作曲した「立入禁止」。カーネーションの直枝氏がアイドルに楽曲提供したのは、森高千里の「夜の煙突」以来ではないだろうか。これがまた、カーネーション絶頂期の3部作(「EDO RIVER」〜「A BEAUTIFUL DAY」〜「GIRL FRIEND ARMY」)を彷彿させる、聴いていて切なさと胸の高まりが止まらなくなるグッドメロディーの名曲なのだ。歌詞もカーネーションっぽさをかなり意識した感じで、カーネーションのファンならにやりとするフレーズもあって、素晴らしい曲である。うどん兄弟がこの曲を歌う姿を生で見れて良かった。

その後の「ABCDいい子ちゃん」は、花澤香奈の「恋愛サーキュレーション」のような、渋谷+秋葉系ガールズラップの理想形、みたいなセンスの良いバックトラックに少女の喋りが乗っかる曲で、ストレートに良い曲と思える曲だった。こういうの大好物です。ハイ。

それにしてもアイドルファンの野太い声援が全く無いと、アイドルのライブは変な感じだ。無声映画を見ているような感じに近い。

途中、楽曲提供者をうどん兄弟の面々が解説するくだりがあったのだけど、最高だった。
鈴木慶一を「お爺さん!」直枝政広「とにかく暗い!」カメラ=万年筆の佐藤さんを「あんな人見たこと無い!」と一刀両断。奥田民生岡村靖幸中川敬と並ぶ個人的アイドルである直枝政広が15歳の少女に暗いおっさん呼ばわりされるのは、正直とてもショックだった。でも笑った。

11月のうどん兄弟のリリースイベントの告知もしていたけど「ゲストはなんと、直枝政広さんです!(ふーん。パチパチパチ)とあと、BELLRING少女ハートさんと…(おおお〜、まじで?というどよめき)」というリアクションを見るに、やはり今日はムーンライダーズカーネーションのファンよりアイドル寄りのお客が多いんだろうな、と思った。しかし、うどん兄弟とBELLRING少女ハート、すごく見たい組み合わせである。

最後の「愛情弁当」。エプロン姿で可愛いらしく踊ってるうちに、だんだん様子がおかしくなって、金属の食器を打ち鳴らし踊り念仏みたいなパートに変わり、それが終わったら包丁を手に持ってグサグサと刺すパフォーマンス。プログレ調の展開をする謎曲でこの日のショーは終わったのだった。正直良く判らん。

ライブの後にステージ横で物販があるとMCをしてステージを降りたのだが、シャイな中年なので物販でアイドルと会話するのは恥ずかしい(「や、山形から来ました〜ステージ衣装が良くお似合いですね〜」とでも言うのか?)ので、そそくさと渋谷を離脱。

自分で書いてて思ったけど、「シャイな中年」って存在価値が無いな。

とあるロッカーが「思春期にシャイなのは、とても惨めな事なんだ」とインタビューで語っていたが。中年期にシャイなのはもう惨めを超えた何かだな。